福岡地方裁判所 平成3年(わ)1253号 判決 1992年8月06日
本店所在地
福岡市博多区金隈五五七番地の一第五パールビル
株式会社
ヒラ商
(右代表者代表取締役 平茂美)
本籍
福岡市南区柏原二丁目二八三番地の二九
住居
同市南区皿山三丁目一一番四〇-三〇六号
会社役員
平茂美
昭和二四年八月七日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官富松茂大出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社ヒラ商を罰金四〇〇〇万円に、被告人平茂美を懲役一年一〇月に各処する。
被告人平茂美に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ヒラ商(以下、「被告会社」という。)は、福岡市博多区金隈五五七番地の一第五パールビル(昭和六三年九月二日以前は、福岡市南区野間四丁目一八番二三号)に本店を置き、ポスター・パネル等の製造販売業を目的とする資本金一五〇〇万円(昭和六三年六月二三日以前は資本金五〇〇万円)の株式会社であり、被告人平茂美は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人平茂美は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外し、架空仕入れを計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四億四〇七万一八三八円であったにもかかわらず、同年五月三一日、福岡市中央区天神四丁目八番二八号所在の福岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六六六四万七六二五円で、これに対する法人税額が二五九九万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億六七七一万二四〇〇円と右虚偽の申告税額との差額一億四一七二万一〇〇円の法人税を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人平茂美の当公判廷における供述
一 第一回公判調書中の被告人平茂美の供述部分
一 被告人平茂美の検察官に対する供述調書一三通
一 川口博実(九通)、清水周一(五通)及び吉木幸雄(三通)の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏大蔵事務官作成の各査察官調査書(二六通、検甲一九ないし四四号)、領置てん末書(検甲四五号)、脱税額計算書及び査察官報告書(検甲四八、四九号。但し、検甲四八号は抄本。)
一 押収してある確定申告書一綴り(平成四年押第四〇号の1)
一 登記官久佐木義雄及び同神野義視各作成の登記簿謄本
(法令の適用)
被告人平茂美の判示所為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年一〇月に処し、後記情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
被告人平茂美の判示所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項及び情状に鑑み同条二項を適用し、免れた法人税額相当の罰金刑の範囲内で被告会社を罰金四〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告会社の業務全般を統括していた被告人平茂美が、一事業年度において、被告会社の三億三七四二万円余りの所得を隠匿し、一億一七二万円余りの法人税の課税を免れたという事案であるが、動機において、肖像権侵害による法的責任の追求を免れるためもあって、別会社を設立してその名義で営業活動を行ううち、予期せぬ利益が上がったことなどから脱税の意図を生じるに至ったもので、特に酌むべき事情は認められず、態様においても、別法人の名義を利用して営業を行ない、その利益を隠匿し、あるいは既存の子会社等を利用して架空の仕入れを装うなど巧妙になされており、単年度であるにもかかわらず逋脱税額が一億四一七二万円余りという巨額に上り、逋脱率も八四パーセントを超える高率であることに加え、査察の際、帳簿類を破棄するなどしていることなどを考慮すると、犯情は芳しくなく、国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた点において強い非難に値する。
しかしながら、被告人平茂美は本件の摘発後は素直に事実を供述するなど反省の態度も窺われること、被告会社は既に修正申告をなし、本税等を分割で納付するなどしていること、被告人平茂美には前科前歴がないこと等被告人らのために酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮の上、主文のとおり刑の量定をした次第である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 早舩嘉一 裁判官 谷敏行 裁判官 足立正佳)